晴れたら乗るよ

 僕は通勤に自転車を使っている。といっても数日前からだ。前職では大雨・大雪でもない限りは毎日自転車だった。今のバイト先には諸事情によりバス(乗り換え有り)を利用していた。現在の仕事先は直線距離だと前の仕事先に数kmプラスした程度なのだが、京都市の政策が悪いのか安倍清明の結界のせいかは不明だが、とにかく通勤時間が3倍になるというありえない仕様。移動だけでヤル気を無くすわ、乗車中にウンコしたくなって途中下車するわ、運転手の帽子の被り方まで文句つけたくなるぐらい合わないと思っていた。

 特に安い給料で交通費が痛い。しょせんはバイトなので生活はただでさえカツカツである。そこへ毎月、一万円弱出て行くのはツライ(交通費は出ないとこ。転職したい…)。季節も秋が深まっており、気温も「朝は少し肌寒いが、歩いたりすれば汗ばむことも。」な様子。ここは自転車の出番だろう。

 ただし自転車にも余分な経費を掛けるほどの余裕は全然ない。玄関先に放置してあったマウンテンバイク、通称『白虎号』を引っ張り出す。長期に渡って放置してあった為にかなりのダメージがある。フロント回りのガタつきは顕著。フルブレーキでもしようものなら、漫画やコントで出てくる画で分解しそうな音を奏でている。ブレーキシューも根っこの金属部が見えそうな勢いで磨耗が激しいが、見なかったことにする

 変速機。使用頻度が高い中速域が何事も無く稼動したのが奇跡。一応油を差しておく。本当は途中にえらくしんどい坂道があるので低速域のセッティングを詰めたいところだが、通勤時のチェーン落ちのリスク考えると、『低速ギアは使用しない』が大人の判断だろう。


 様々な問題があるが、何とか白虎号が使えるようなので一安心。道中も最初は結構疲れたが、慣れてくると以前のペダリングも思い出して軽快になってきた。自転車通勤も悪くないと思い3日ほどたった。今日まではバイト先のいわゆる“安息日”。仕事量が少なくなる数日で、ピーク時の逆の週だった。おかげで早くに帰宅出来ていた。今日から残業が続くわけである。冒頭にも言ったように季節は秋も終盤。会社出るともう真っ暗である。



 忘れていたことがある。ライトのチェックである。


 この“白虎号”はマウンテンバイク。当然のことながら純正ではライトは付属していない。前職では毎日、しかも夜間走行が多かった為にダイナモ式のライトを後付けしていた。ただ取り付け部分のフォークとの関係や見た目の“カッチョ良さ”などから、セコイ小型ダイナモライトを取り付けていた。コイツは発電の為にリムと接触する部分の強度に問題があり、雨の日や泥を被ると役に立たなくなるという素晴らしいライトだった。その為か放置プレイする直前には、ライト自体が点いたり点かなかったりが『その日の気分次第』という状態になっており、自転車に乗りながらダイナモ部分に“蹴りを入れる”ことでダマシダマシ使用していた代物だ。

 今夜もアヤしい明滅を繰り返しながら、何とか点灯を続けるセコライト。勿論信号待ちの度にダイナモに愛の蹴りを入れる状態である。途中では諦め半分で、『うーん、今度の日曜日にでも川沿いでダイナモだけアサるかなあ。ダイナモが基本的にダメなんだし。ライトは今のが軽量でいい感じだし。』とか思っていた。しかし、段々と蹴りの回数が増え続ける。ガンバレ、セコライト!ガンバレ、白虎号!…


 …気合が空回りしてしまったのだろう。あろうことかダイナモ部分ではなく、走行中にライト部分を蹴り飛ばしてしまい、見事に前輪に巻き込まれるmyライト。軽いジャックナイフ状態に緊急ブレーキ。ライトは完全粉砕したが自転車は無事。さすがは安物だが強度だけは同系モデルで上位だった白虎号。


 すぐ近くのホームセンターに電池式のライトを買いに行く。ホームセンターの明かりで思い出したように気づく。タイヤにも微細なひび割れが…。中世期の絵画のような深い皺を刻んでいた。そういやワイヤー系の張りも途中調整してて“限界”だった。出費を抑えるという当初の目的からは、少し遠くなりそうだ。